話し手・入居者 : ATAMI SCHOLE チーフエバンジェリスト 鶴淵 志穂
AJIRO MUSUBI の 2 階の ROOM2-2 に拠点を構える「ATAMI SCHOLE(アタミスコーレ)」。ここで活動を展開するのは、25 年の保育士キャリアを持つ鶴淵志穂さんです。元保育士として現場で抱いてきた「大人の“こうあるべき”」への違和感。そこから、遊びと学びの境界を溶かす試行錯誤の日々が始まりました。自然体験、文化、アート、テクノロジーなど、海と山に囲まれたこの場所で、彼女が描き出そうとしている未来について、お話を伺いました。

──ATAMI SCHOLE はどのようにして誕生したのですか?
きっかけは、熱海のまちづくりの集まりに参加したことでした。そこで熱海で事業をされている方と繋がり、そのご縁で現在の会社の代表と出会いました。お話しする中で見えてきたのが、「子どもの主体性をどう伸ばしていくか」という共通の想いです。会社の「興育」という理念に共感・共鳴し、会社の中に新しい部署を共につくることになりました。そしてできたのが「エデュケーション部」です。私は 25 年間、保育士として多くの子どもたちと向き合ってきました。しかし現場では、大人の「こうあるべき」という枠にはめることで、子どもの純粋な「やりたい」を奪ってしまう場面に何度も直面し、ずっと違和感を抱いてきたんです。そして、違和感があるからこそ、子どもが自分らしく主体的に歩み出せる場をつくりたいという、自分の想いを叶えたいと思いました。そんな長年の願いを形にしようと、AJIRO MUSUBI を拠点に誕生したのが「ATAMI SCHOLE」です。
──“違和感”というのは具体的には?
例えば、給食。子どもが『今日は食べたくない』って言っても、みんなと同じように座らされて食べさせられる。走り回っていても『座りなさい』って。それがずっと嫌で。大人の都合で子どもを制御するっていうか。子どもって本来自分の興味で動くはずなのに。そういうことにずっと違和感を持っていて、自分が思うような保育ができなかった。だから、子どもの内発的な興味を起点にする場をつくりたいと、自らやる腹を決めたんです。
──ATAMI SCHOLE では、具体的なプログラムはどんなものがありますか?
今はすごく幅広くやってます。自然体験、テクノロジー体験、日本の文化体験なんかもやっています。要はやることは何でもいいんです。大事なのは、その体験を通して子どもたちが『お、これ面白い!』って自分で動き出すかどうか。大人が仕掛けた導くツールではないんです。『自然』は予測できないことが多くて、その偶発性が問いを生むんですよね。土の色が違うとか、どんな波の音とか、そういうところから『なんでだろう?』が生まれてくる。そこから自分で考えたり試したりして学んでいく。そういうプロセスを大事にしています。


──なるほど。それで、今後は自然体験に重きを置くんですね!
そう。管理された遊び場ではなく、予想外の出来事や失敗が起こる自然体験の中では、子ども自身が問いを立てて試す機会が自然に生まれます。今年からはもうちょっと自然体験に舵をきっていきたい。テストの点数とか技能だけを伸ばしても、それが幸せに直結するかは分かりません。感じる力とか、相手を思いやる共感力、自己肯定感、そして自分で学び続ける力──いわゆる非認知の部分を育てることが、長期的にはすごく大事だと思うんです。そして自然の中だと、それが育ちやすいんです。


──お話の中で『大人も共に育つ』とおっしゃっていましたが。
そうなんです。今は、子どもを危なくないように囲い、守り、導く世の中です。保育士として組織で働きながら葛藤があったから、私自身も心理学や脳科学まで学び直したんです。そして何より個人的な経験からも『命』がここにあること、それだけで奇跡だとすごく感じていて、一人ひとりに『輝く種』があるから、大人が思うように育てるんじゃなくて、その芽を潰さないで見守りたいんです。だから ATAMI SCHOLE では、大人が導くんじゃなくて、安心して失敗できることが基本です。それができるように大人も共に育っていく必要があります。大人が管理し、教え込むのではなく、安心安全の場になることが大切だと思っています。
──『AJIRO MUSUBI』を拠点にした理由は?
網代はね、背に山があって、目の前に海があるでしょ?自然がすべて揃っているんです。そして海だけなら日本全国にあるけど、網代の海は生活感のある海で、つくり込まれていない『自然さ』が残っているんです、それと、ここには都会とは違うリズム、時間の流れがあって、子どもたちにとっては感覚が刺激される環境だと思っています。あと、AJIRO MUSUBI に集まる人たちが多様なんですよ。地元の人、都会から移住してきた人、海外の方もいたりして。私は地元の出身なんですが、今 AJIRO MUSUBI を中心に、そんな集まりが生まれてきているのがありがたい。そういう『人の交差』自体が学びになるから。入居者さんや通りすがりの人と、子どもが自然に出会えるのもいいですね。

──『AJIRO MUSUBI』での活動頻度はどれくらいですか?
たぶん入居者の中で一番使ってるかも。週に 2 回くらいは AJIRO MUSUBI に来ています。子どもたちのプログラム以外にも、講座を開いたり、ママさんのコミュニティやお茶会をしたり。AJIRO MUSUBI や地域のイベントとも一緒になって、夏祭りやクリスマスのイベントもやりましたよ。コミュニティの参加者は毎回 2〜10 人ぐらいまでまちまちですが、強制ではなくて、参加したいときに参加できるという『場』であることが重要だと思っています。そんな緩やかな集まりが、AJIRO MUSUBI ではできるんです。


──活動を通じて印象に残っているエピソードはありますか?
たとえば海のプログラムで、最初は海に触るのも怖がっていた子が、自分で砂を触ったり、小さな貝を拾ったりして、自分の遊び方を見つけ、つくり出していったんです。その子が『もっとやりたい』って自ら参加するようになったときは、本当にうれしくて、これだなって思いました。与えられたものをこなす『やらされてやる』のと、自分で興味を見つけて追いかける『やりたいと思ってやる』のは全然違う。失敗しても『またやろう』っていう気持ちが育つんです。
──今後のビジョンを教えてください。
これからは『旅する学び場』みたいな活動を展開していきたい。物理的に旅をするということも含めて、AJIRO MUSUBIを拠点にして、地元の子どもたちが海外の方や都会の子どもたちと交流できる場をつくりたい。逆に都会の子どもたちが地域の暮らしや自然に触れることで、いろんな価値観に出会えるようにもしたい。これまで点でやってきた体験を体系化して、年間を通じたプログラムにしていきたいです。


──これから、この『AJIRO MUSUBI』でどんな人とつながりたいですか?
そうですね、教育者、アーティスト、自然体験のプロ、地域団体、入居事業者、そして単純に「子どものやりたいを応援したい」って思ってくれる人 ──手段は何でもいいんです。子どもたちの生きる未来を一緒につくっていきたい、そんな気持ちがちょっとでもあったら、まずは来て、声をかけてほしいです。話してみないと分からないことが山ほどありますから。
──最後に、この地域の好きなところがあったら教えてください。
私は海が好きで、朝起きて海が見えないとダメなんです(笑)。ここ網代の海はまだつくり込みすぎてなくて、生活感が残っているところが好き。網代の海に行くと気持ちが切り替わるというか、生きてるって実感があるんですよね。そういう環境が、子どもたちの『感じる力』を育てるんだと思います。

──ありがとうございました。ぜひ一言メッセージをお願いします。
本当に、声をかけてください。どんな人がいるか、どんな思いがあるか話し合ってみることから始まるので。一緒に子どもたちの未来をつくっていける人がいれば嬉しいです。見学やプログラム参加、まずは気軽に連絡をくださいね。
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