“待つ”という価値

AJIRO MUSUBIを運営する一般社団法人あじろ家守舎は、南熱海・網代という豊かな自然と歴史を持つこの町で、“まちを育てる”ことを仕事にしています。
そして私たちがまちづくりのなかで大切にしている言葉があります。それが「待つ」ということです。
網代は、江戸時代には“風待ち漁港”として栄えた町です。風が吹くその時をじっと待ち、船を出す。
そして、今も続く定置網漁は、魚を「追う」のではなく、「来るのを待つ」漁法。
さらに、網代名物の干物づくりもまた、海からの恵みを干して、じっくりと旨味を引き出す“待つ”仕事です。
この町には、自然と共にあり、最適な時を信じて待つという文化が、深く根付いています。

「待つ」とは、ただ耐えることではありません。
それは、このまちの未来を信じ、地域資源や人の想いを大切にしながら、最良のタイミングに向けて準備を重ねていくこと。
焦らず、でも確実に、一歩ずつ前に進む。
それが、私たちが選び続けている「待つ」というまちづくりの姿勢です。
すぐに結果が見えなくとも、日々の営みのなかで小さな変化と前進を積み重ねていくことが、やがて大きな実りを生むと信じています。
短期的な成果にとらわれることなく、時間をかけて関係性と信頼を育む。そうしてこそ、本当に持続可能なまちが形づくられていくのだと思います。

私たちは、次の4つの「待つ」を大切にしています。
- 街の魅力を熟成させる「待つ」
どんな町にも、その土地ならではの歴史や文化、自然の魅力があります。
網代も、漁業や温泉、山と海に囲まれた風景、そこに息づく人々の暮らしという宝物を持つ町。
それを一気に変えようとするのではなく、丁寧に向き合い、じっくりと熟成させながら発信することで、新たな交流や産業が自然と生まれていくと考えています。 - 新しい挑戦を支える「待つ」
まちに新しい風を吹き込むには、挑戦する人を迎え、支える姿勢が必要です。
すぐに成果を求めるのではなく、試行錯誤できる余白を用意し、成長を信じて見守る。
網代では、地元の人も、移住者も、訪れた人も、「家族のように」つながれる不思議な温かさがあります。
血のつながりではなく、想いのつながりで支え合えるこの町だからこそ、新たな挑戦が根づく環境を「待つ」ことができるのです。 - 世代を超えて受け継ぐ「待つ」
まちづくりは、時間のかかる営みです。
子どもたちがこの町に愛着を持ち、未来の担い手として育っていくには、学びや体験、地域とのつながりが必要です。
そのために私たちは、教育や体験の機会をつくり、次の世代がこの町で未来を描けるように環境を整え、育つのを“待つ”ことを大切にしています。 - 変化のタイミングを見極める「待つ」
まちには流れがあり、無理に変えようとすると、かえって壊れてしまうこともあります。
だからこそ、観光や移住、まちの新たな取り組みも、焦らず、求められる時が来るまで準備を続ける。
「来てほしい」ではなく、「行きたい」「関わりたい」と思ってもらえるまちに育てていく。
変化の波を見極め、“その時”を信じて待つことこそが、まちの力になると信じています。
私たちは、網代という町の未来を信じています。
風を待ち、魚を待ち、人を待ち、変化を待つ――。
この町には、待つことを誇れる文化と、人と人とが血縁を超えて家族のようにつながる力があります。

だからこそ、「待つ」という行動に誇りを持ち、共に育てていく仲間を増やしながら、ゆっくりと、でも確かに歩みを進めていきます。
焦らず、立ち止まらず。
この網代という町で、これからも“心豊かないい時間”を、ともにつくっていけたらと思っています。
